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みやもとむさし
宮本武蔵
吉川 英治
04 火の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页
ちょうどその時、東山の肩に、のっと大きな太陽が真っ赤な焔の環の端を見せていた。ことしの第一日の日輪だった。
「…………」
五条大橋の前に立って、武蔵は恍惚と見とれていた。あかあかと、腹の底まで陽の光が映しこむように思えた。
一年のうちの小我な狭い考えの中に湧く愚痴の虫は、この雄大な光の前に、影をひそめてただ清々しい。生きているという欣びだけでも武蔵は胸がいっぱいになった。
「しかも、おれは若い!」
五ツ切れの餅の力は、踵にまで充溢していた。彼は、踵をめぐらして、
「まだ来ていないようだな……又八は」
と、橋の上を見まわした。そしてふと、
「あ? ……」
と、呟いたが、そこに自分より先へ来て待っていたものは、又八でも他の人間でもなかった。
植田良平以下の吉岡門下が、きのうここに建てて去った例の高札である。
――場所は蓮台寺野。
――日は九日の卯の下刻
「…………」
武蔵は顔を寄せて、生々しいその新板と墨のにじみを凝視した。文字を読んでいるだけで、彼のからだは針鼠のように闘志と血に膨らんで丸くなった。
「……あ痛、ああ痛い」
武蔵は、またしても、左の眼の激痛に堪えかねて、思わず瞼へ手を当てたが、ふと俯向けた顎の下に、一本の針を見出してぎょっとした。