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みやもとむさし

宮本武蔵

吉川 英治

04 火の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页

青空文庫

五

(ふふん……)

そういったような白い蔑みを、武蔵は彼の横顔に見たが、心のうちでは、自分の眼――意力が――彼を遂に圧伏したと思って、かるく愉快だった。

「朱実さん」

欄へ面を当てて泣いている彼女の背へ、武蔵は手を加えて、訊ねた。

「誰だ? おまえの知人だろう。あれにいる若衆すがたの武者修行は。……え、誰だ、いったい?」

「…………」

小次郎の姿を、その時初めて気づいた彼女は、泣き腫らした顔に、明らかな狼狽えを走らせて、

「ア……あの人が」

「あれは誰だ」

「あの……あの……」

と朱実は口籠った。

五

「見事な大太刀を背に負って、これ見よがしの伊達な装い、よほど兵法自慢の者らしいが……一体朱実さんとあの男とは、どういう仲の知りあいなのか」

「べつに……なにも深い知りあいじゃないんですけれど」

「知っていることはいる人なのだな」

「ええ」

武蔵に誤解されることを惧れるように、朱実は、はっきりいった。

「いつぞや、小松谷の阿弥陀堂で、どこかの猟犬に腕を咬まれた時、あまり血が出て止まらないので、あの方の泊っている宿へ行って医者を呼び、それからつい三、四日、お世話になっているんですの」