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みやもとむさし
宮本武蔵
吉川 英治
04 火の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页
見えるだろ、ほら、ここからでも。――だけど、おいら、とても癪にさわってるんだ。――おいでよ! お通さんてば! はやく来なくちゃ駄目じゃないか」
こんどは、彼女の手くびを取って、抜けるほど引っ張り出したが、ふと、その手くびの濡れていることや、お通が顔を上げて見せないので不審を起し、
「……オヤ、……オヤ、お通さん。なにしていたのかと思ったら泣いていたのかい」
「城太さん」
「なにさ」
「武蔵様のほうから見えないように、お前も、蔭にかくれていてくださいよ。……ネ、ネ」
「なぜさ」
「なぜでも……」
「ちぇッ!」
城太郎はまた、ここでも腹が立って、その鬱憤のやり場がないように、
「だから女って奴は嫌ンなっちゃうぜ。こんなわけの分らねえことってあるだろか。――武蔵様に会いたい会いたいといってあんなに泣いたり捜したりしていたくせに、今朝になったら急に、こんな所へ隠れて、おいらにまで隠れていろって……。けッ、けッ、おかしくって、笑えもしねえや」
彼のことばを鞭のように浴びているお通であった。紅く腫れている眼をそっと上げて、
「城太さん、城太さん……そういわないでください。……たのむから、そんなにお前までわたしを虐めないで」