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みやもとむさし

宮本武蔵

吉川 英治

04 火の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页

青空文庫

「どこへ、おいらが、お通さんを虐めてるかい」

「黙っていてね……じっと私と一緒に屈んでいてください」

「いやだい、牛の糞がそこにあるじゃないか。元日から泣いてなどいると、鴉が笑わあ」

「……なんでもいいの。もう……もうわたしは」

「笑ってやろう。先刻、彼方へ行った若衆のように、おいらも、初笑いに手をたたいて笑ってやるぜ。……いいかいお通さん」

「おわらい、たくさん」

「笑えねえや……」

鼻汁をこすりながら、むしろ彼は泣きたそうな顔をした。

「アア、わかった。お通さんは、あそこで武蔵様がよその女と、先刻からあんなことして話しているんで、嫉妬をやいているんだね」

「……そ、そうじゃない、そんなことじゃないけれど」

「そうだよ、そうだよ。……だからおいらも癪にさわってるんじゃないか、だからよけいに、お通さんが出て行かなければ駄目じゃないか。わからずやだなあ」

二

いくらお通が強情に屈みこんでいようとしても、城太郎の力で無理やりに手くびを引っ張るのにはかなわなかった。

「痛い。……城太さん、後生だからそんな酷いことをしないでよ。……私をわからずやだとおいいだけれど、城太さんこそ、私の気持なんかわからないのです」