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みやもとむさし
宮本武蔵
吉川 英治
04 火の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页
と、必死にたしなめて、
――冷たく、冷たく、冷たく。
と、自己の行為しようとする意思を、みなふだんの女の修養というものの下へじっと抑えつけてしまうのだった。
しかし、朱実が去ると、彼女はもうそういう怺えはかなぐり捨てた。武蔵へ向って、いうつもりであった。どういうことをいおうなどと考えている遑はもとよりなかったが、胸のうちのものをみんないうつもりであった。
人生の道はいつも、一歩が機微である。また、なにかの場合に、ふだんの常識さえあれば、分りきっていることを、ふと、心へ間違いを映しとってしまうためにその一歩が、十年のまちがいになったりする。
武蔵の影を見失ったために、お通は、お杉隠居に出会ってしまった。元日なのに、きょうはなんという凶い日か、彼女の花園には蛇ばかりが出た。
――夢中で彼女は三、四町ほど逃げた。ふだんでも、怖い夢を見たと思うと、その中にはきっと、お杉の顔があった。その顔が、夢でもなく、追って来るのである。
息がつづかなくなった。
お通は振向いてみた。
ほっとその途端に初めて呼吸が休んだのである。お杉隠居は、半町ほど後ろで、城太郎の首をしめて、立ちどまっている。