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みやもとむさし

宮本武蔵

吉川 英治

04 火の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页

青空文庫

九

九

裏へ廻ると見物の出入りしないべつな口があった。又八が、そこを覗くと、

「賭場へゆくのか」

と、立番の男がいう。

うなずくと、よしというような顔をしたので、彼は入って行った。幕の中では、青天井をいただいて、二十人ばかりの浮浪人が、車座になって、博戯をしている。

又八が立つと、じろっと、すべての白い眼が彼を見上げた。一人がだまって、彼の前に席を開けたので、あわてて、

「この中に、赤壁八十馬って男はいないか」

訊くと、

「赤馬か。そういえば赤馬の奴、ちっとも出て来ねえが、どうしたんだろう」

「ここへ来ましょうか」

「そんなこと、わかるもんか。まあ、入りねえ」

「いや、おれは博戯事に来たんじゃない。その男を捜しに来たのだ」

「おい、ふざけるなよ、博戯もせずに、賭場へ何しに来やがったんだ」

「すみません」

「向う脛を掻っ払うぞ」

「すみません」

ほうほうのていで出て来ると、追いかけて来たガチャ蠅の一人が、

「野郎待て。ここは、すみませんで済む場所たあ違う。ふてえ奴だ。博戯をしなけれやあ、場代をおいてゆけ」

「金などない」

「金もねえくせに、賭場のぞきをしやがって、さては、隙があったら、銭を攫って行こうという量見だったにちげえねえ、この盗っ人め」