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みやもとむさし
宮本武蔵
吉川 英治
04 火の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页
「安心してござれ、おふくろ」
「なるほど」
隠居は、首を振って、
「見たか、権叔父、大したものじゃわ。小さい頃から、あの武蔵などより、ぐんと賢く、腕も出来ていただけのことはある」
と、涎を垂らさないばかりに満足をあらわしたが、ふと、それを巻きかけた又八の手がすべって、終りの一行が眼にうつると、
「これ待て、ここに佐々木小次郎とあるのはなんじゃ」
「あ……これですか……これは仮名です」
「仮名? 何で仮名などつかいなさる、本位田又八と、立派な名のあるものを」
「でも省みて、自分に恥のある生活をしていたので、先祖の名を汚すまいと」
「オオそうか。その性根たのもしい。――おぬしは何も知るまいがこれから故郷元のことども聞かせて進ぜるほどに、よう聞きなされ」
隠居は、そう前置きして、この一人息子を、いよいよ鼓舞し、激励するために、その後、宮本村に起った事件やら、本位田家の立場から、また、自分と権叔父とが、ために出郷することになり、お通と武蔵とを討つべく、多年ふたりの行方をさがし歩いていることなど――誇張する気もなく誇張に落ちたが――何度も鼻をかみながら、諄々と眼を濡らして語った。