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みやもとむさし
宮本武蔵
吉川 英治
04 火の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页
三
三
じっと首を垂れたまま、又八は老母の烈々と吐くことばに打たれていた。こうしている間は、彼も善良で神妙な息子だった。
けれど、隠居がいおうとする重点は、もっぱら家名の面目とか、侍の意気とかにあったが、この息子の感情を強く打った点は、そこになくて、
(お通がこころ変りした)
と、いう初耳の話だった。
「おふくろ、それは真実か」
彼の顔いろを知ると、隠居は、自分の鞭撻が、彼を奮起させたものと思いこみ、
「嘘と思うなら、叔父御にもただしてみやれ、お通阿女はおぬしを見かぎって、武蔵の後を追って去んだわさ。――いやの、もっと悪う考えれば、武蔵はおぬしが、当分は村へ帰らぬものと知ってじゃほどに、お通をだまして、奪って逃げたともいえる。のう権叔父」
「そうじゃ、七宝寺の千年杉へ、沢庵坊主のため、縛りつけられたのを、あのお通の手をかりて逃げ失せた男女のことゆえ、どうせ碌な仲じゃあるまいての」
こう聞いては又八も、鬼とならずにいられなかった。それでなくても、彼へは――あの武蔵という人間に対しては、どういうものか反感があってならなかったところである。
隠居の激励は、鞭に鞭を加えて――