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みやもとむさし
宮本武蔵
吉川 英治
04 火の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页
「おわかりか」
美少年は、そういって、荷梱のあいだへ立ち去った。
土気色になった自分の顔いろを、藤次はいかんともすることが出来なかった。だが、その時はまだ自分の五体のうちの最も重要な部分が斬り落されていることなど気づかなかった。
美少年が去った後で、ふと、冬陽のうすくあたっている船板の上を見ると、変な物が落ちている。それは、刷毛のような小さな毛の束だ、アッと、初めて気づいて、自分の髪へ手をやってみると、髷がない。
「や、や? ……」
撫でまわして驚き顔をしている間に、根の元結がほぐれて、鬢の毛はばらりと顔にちらかった。
「やったな! 青二才」
棒のように胸へ突っ張ってくる憤怒であった。美少年が自ら語っていたことのすべてが、嘘でも法螺でもないことが、とたんに分りすぎるほど彼には分った。年に似合わない怖ろしい技だと思う。若い仲間にも、ああいう若いのもいるのかと今さら思う。
だが、頭脳の驚嘆と、肚のそこの憤怒とは、べつ物である。そこからのぞいて見ると、美少年は先刻の席へもどって、何か、失くし物でもしたように、自分の足もとを見廻している。藤次は、絶好な隙をその体に見つけた。