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それでもわたしはいく

それでも私は行く

織田 作之助

「京都日日新聞」1946(昭和21)年4月25日~7月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,708 字 · 181 页

青空文庫

三

しかし、小郷は君勇がひきつけられていると思ってしまったくらい、嫉妬にかられていた。

小郷はたまりかねて、いきなり起ち上って客席を出て行った。

すると一人の男がすっと起ち上って、小郷のあとをつけて行った。

三

小郷が廊下へ出て行くのを見ると、君勇もあとからついて行こうとして、立ち上りかけて

「あッ!」

と、声をのんだ。

そして、そのまま椅子に釘づけになっていたが、やがて、意を決したように、青ざめた顔に、緊張した表情をきっとうかべて、望月の歌声を背中に、廊下へ出て行った。

廊下にはしかし、もう小郷の姿は見当らなかった。

小郷は電話室へはいっていたのである。

どこへ電話しようとしたのか。

――廊下へ出た時の小郷は、蒼白になっていた。

彼の苦悩はこの時、殆んど絶頂に達していたが、しかし、今や自分をさいなむことに自虐的な快感すら感じていた彼は、望月三郎の声をきいた今、その姦通の相手である真紀子の声をきいてみたい――という、ちょっと常識では考えられぬ奇妙なことを思いついたのだ。

もっとも、一つには、今日の彼はもう思い切り享楽の限りをつくすよりほかに、苦悩を癒やすすべがなかったから、そのためにいる金を、家から持って来させようと思ったのだ。