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それでもわたしはいく

それでも私は行く

織田 作之助

「京都日日新聞」1946(昭和21)年4月25日~7月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,708 字 · 181 页

青空文庫

八

使い切れぬぐらいの新円を銀行から引き出していたのだ。

小郷にそんな野心があるとは、鈴子は気づかず、君勇に話しかけた。

「君勇姐さん、ええ扇子お持ちどんな」

「えッ?」

君勇はわれにもあらずどぎまぎした。

扇子には鶴の絵が描かれているのだ。鶴雄の鶴に因んだ絵だとは知られたくない。

「それどこでお買いやしたんどす……?」

「河原町で……」

と、言いかけて、君勇はいきなり、

「――ほしかったら、あんたにあげる」

「おおーけに……」

鈴子は無邪気にその扇子を受け取った。

そこへ女中が、

「あの、新聞社の方がお見えどす」

と、知らせて来た。

八

弓子は先斗町を通るのははじめてだったが、路地の中ですれちがった芸者をつかまえて、

「桔梗家ってどこでしょう……?」

と、きくとふっと、赧くなりながら、教えてくれた。

その芸者が赧くなったのは、そこが鶴雄の家で、その芸者が鶴雄に岡惚れしているからだとは、無論弓子には判るはずはなかった。

いや、鶴雄が先斗町に住んでいることすら、弓子は知らないのだ。

知らずに、弓子は女中に案内されて、小郷のいる部屋へはいって行った。

その部屋には、男は小郷ひとりだから、すぐ、