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みやもとむさし

宮本武蔵

吉川 英治

04 火の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页

青空文庫

わすれ貝

一

小猿が骨牌のふだを取って逃げたからとて、この身がいいつけたわけではなし、あの連中のする悪戯を、猿が真似したまでのこと、わしから迷惑を詫び出るすじはない」

ことばの半ばから、美少年は、血の気の多いその顔を、彼方の一つどころにかたまっている堺や大坂の旦那連のほうへ向けて、極めて皮肉な笑い方をしていったのであった。

わすれ貝

一

潮騒の夕闇に、木津川湊の灯は赤く戦いでいる。

どことなく魚臭いものが迫る。陸が近づいたのだ。船から呼ばわる声と、陸でわいわいという声が、徐々に、距離をちぢめていた。

どぼーんと、真っ白なしぶきが立つ。錨が抛りこまれたのである。繋綱が投げられる――渡り板が架けられる。

「かしわ屋でございますが」

「住吉の社家の息子さまは、この船にござらっしゃらぬか」

「飛脚屋さんはいるかね」

「旦那様あ」

渡海場の埠頭にかたまっていた迎えの提燈は、灯の波を作って船の横へ迫ってゆく。

その中を、例の美少年が、揉まれて降りて行った。肩に小猿を乗せている姿を見て、旅籠の客引きが二、三人、

「もしもし、猿のお泊り賃は、無料にいたしておきますが、私どもへお越しくださいませぬか」