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みやもとむさし

宮本武蔵

吉川 英治

04 火の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页

青空文庫

二

それが今、ここで始まりそうな気色なので権叔父は、こんなところで開き直られては閉口と、

「まアまア、まアまア」

と、母子をなだめて歩み出した。

二

困った母子だと権叔父は思う。

何とか、隠居のきげんを直し、又八のふくれ面もなだめたいものだと、双方に気をつかって歩いている。

「ホ、よいにおいがすると思ったら、あれなる磯茶屋で、焼き蛤をひさいでおる。婆よ一酌やろうではないか」

高燈籠の近くにある海辺の葭簀茶屋であった。気のすすまない顔つきの二人を誘って、

「酒あるか」

権叔父は先へ入って行く。

そして、

「さ、又八もきげん直せ。婆もちとやかまし過ぎるぞよ」

杯を出すと、

「飲みとうない」

お杉隠居は、横を向く。

引っ込みを失って、権叔父はその杯を、

「じゃあ又八」

と、彼へ酌した。

むッつりむッつり又八はたちまち二、三本ほど飲みほしてしまう。それが老母の気に喰わないことは勿論である。

「おい、もう一本」

権叔父をさし措いて、又八が四本目を求めると、

「いい加減にしやれ!」

と、婆は叱った。

「遊山や酒のむためのこの旅かよ。権叔父も、ほどにしたがよい。幾歳になっても、又八と同じように、年がいもない人じゃ」