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みやもとむさし
宮本武蔵
吉川 英治
04 火の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页
「とにかく、御一覧を」
やや焦れて、良平がいうと、
「む……これか」
やっと手に取って、清十郎は読み出した。
読んでゆくうちに彼の指先にかすかな顫えが隠されなかった。――それは武蔵の文字や文面がさまでに烈しいからではなかった。彼自身の心が今ほど脆く弱りきっている時はなかったのである。襖ごしに聞える朱実の囈言は、彼にも多少は平常にあった侍の心がまえというものを、まったく泥舟が水へ浸ったように覆していた。
武蔵からのその内容はまた、至って簡明なもので、こう書いてある――
以来御健在ナリヤ
約ニ依而、茲ニ書ヲ呈ス
貴剣サダメシ御鍛養ト被存候、貧生マタ些カ鍛腕ヲ撫シテ罷リアリ候
御見ニ入ル場所ハ何処、日ハ何日、時ハ如何ニ。
当方構エテ望ミナシ、タダ尊示ニ従ッテ旧約ノ勝敗ヲ決セント存ズルアルノミ。
憚リナガラ正月中七日マデノ間、五条橋畔マデ、御返答高札下サルベク候
月 日
新免宮本武蔵政名
「すぐ帰る」
清十郎は文殻をたもとへ突っ込むとそういって立ち上がった。――さまざまに縺れる気持が、もう少しでも彼をそこへじっとして置かせなかった。
あわただしく旅舎の者を呼ぶ。