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みやもとむさし
宮本武蔵
吉川 英治
04 火の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页
「あっちとは」
「工事奉行のお白洲」
「おれを罪人扱いするのか」
「だまって参るのだ」
「役人、こらっ。――貴様あ、そんな権柄顔さえすれば愚民が驚くと思っておる癖がついてるな」
「歩かんか」
「歩かせてみろ」
てこでも動かない姿勢を示すのである。見廻りは、青すじを立てた。掴んでいた写図の破れを、地へすてて踏みにじり、二尺余りの長い十手を腰から抜いた。
武者修行の手が刀へかかったら、すかさず、その肱へ十手の打撃を入れてやろうとするもののように、腰を退いて身構えたが、その様子もないので、もう一度、
「歩かんと、縄を打つぞ」
ことばの終らないうちに、武者修行のほうから一歩出て来た。何か大きな声を発したと思うと、見廻りは首の根をつかみ寄せられていた。武者修行の片手はまた、彼の鎧帯の腰をつかんで、
「この、虫けら」
巨石の角へ向って抛り投げた。
見廻りの侍頭は、先刻そこで石曳きの男がたたき割った西瓜のようになって、形を失ってしまった。
「……アッ」
又八は、顔を抑えた。
真っ赤な味噌みたいなものが彼のいる辺りまで刎ねて来たからである。平然たるものは、彼方の武者修行であった。