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みやもとむさし
宮本武蔵
吉川 英治
04 火の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页
二
「ムム」
「ようがすかね」
「ウム」
何をいっても頷いてばかりいるのだ、無口な客は馬の背から那古の浦に気を奪られている。
それは、武蔵だった。
春の末つ方からこの冬の暮まで、どこを足にまかせて歩いて来たのか、皮膚は渋紙のように風雨に染まり、ただ二つの眼だけがいよいよ白く鋭く見える。
二
馬子はまた訊ねて、
「旦那、安濃郷の雲林院村というと、鈴鹿山の尾根の二里も奥だが、そんな辺鄙なところへ、何しに行かっしゃるのじゃ」
「人を訪ねに」
「あの村には、木樵か百姓しかいねえはずだに」
「くさり鎌の上手がいると桑名で聞いたが」
「ははあ、宍戸様のことかね」
「うむ、宍戸何とかいったな」
「宍戸梅軒」
「そう、そう」
「あれは鎌鍛冶じゃ、そして鎖鎌をつかうそうじゃ。すると旦那は武者修行だの」
「うむ」
「それなら鎌鍛冶の梅軒を訪ねて行かっしゃるより、松坂へ行けばこの伊勢で聞え渡っている上手がおりますがな」
「誰か」
「神子上典膳というお人で」
「ははあ、神子上か」
武蔵は頷いた。その名は夙く知っていたように多くを問わない。黙々と馬の背に揺られながら脚下に近づいて来る四日市の宿場の屋根を眺め、やがて町に入ると屋台の端を借りて弁当をつかう。