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みやもとむさし
宮本武蔵
吉川 英治
04 火の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页
――ふとその時、彼の片方の足を見ると、足の甲を布で縛っていた。歩むには少し跛行をひいている形である。
足の裏の傷が膿んでいるのだった。それゆえにきょうは馬の背を借りて歩いているものとみえる。
彼は今、自分の体というものに対して、日々、細心ないたわりを施していた。そうした注意を抱いていたに関わらず、鳴海港の混雑の中で、釘の立ッている荷箱の板を踏みつけてしまったのである。昨日から傷に熱を持って、足の甲は樽柿のように地腫れがしていた。
(これは、不可抗力な敵だろうか?)
武蔵は、釘に対しても、勝敗を考えるのだった。――釘といえども兵法者として、こういう不覚をうけたことを恥辱に思うのだった。
(釘は明らかに、上を向いて落ちていたのだ。それを踏みつけたのは、自分の眼が、虚であって、心が常に全身に行き届いていない証拠だ。――また、足の裏へ突きとおるまで踏んでしまったことは、五体に早速の自由を欠いていたからで、ほんとの無碍自在な体ならば、草鞋の裏に釘の先が触れた瞬間に、体は自らそれを察知しているはずである)
自問自答にこの結論を下して、
(こんなことでは)
と、自己の未熟が反省され、剣と体とがまだまだ一致しない――腕ばかりが伸びてほかの体や精神は合致しない――一種の不具を感じて忌々しくなるのだった。