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みやもとむさし

宮本武蔵

吉川 英治

04 火の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页

青空文庫

ふしぎなこの痛みは、千年杉の梢に曝されたあの時の神経が、まだそのまま生理的な記憶の中に生きている証拠であった。

(今にみろ、おれが沢庵を千年杉に縛りあげて、地上から悟道を説いてくれるぞ)

彼はいつもそう思った。恨みではない、報復ではない、そんな感情の上からではなく、武蔵は、禅によって人生の最高へ住もうとする沢庵に対して、自分は剣によって、どこまで沢庵の上に到ることができるかということを、実にすばらしい宿望の一つとして胸の底に抱いているのだった。

もしああいう形はとらなくても、自分の道境がめざましい進歩を遂げて、沢庵をかりに千年杉のこずえに縛って、地上から彼に向って、彼の蒙をひらいてやるような叱咤を与える日があったら、沢庵は梢の上から何というだろうか。

武蔵はそれを聞きたいと思う。

おそらく沢庵は、

(善哉! 満足満足)

と欣ぶにちがいない。

いや、あの男のことだから、そう素直にはいわないだろう。からからと打ち笑って、

(豎子! やりおる)

というか。――何でもよい、武蔵は彼へ対する恩義として、どういう形でもよいから沢庵のあたまへ一度、ぐわんと自己の優越を示してみたい。