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みやもとむさし
宮本武蔵
吉川 英治
04 火の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页
四
――今がちょうど、桑名で聞き出したそういう一人の相手を、これから尋ねてゆく途中であった。聞き及ぶ鎖鎌の達人宍戸梅軒なる者が、この世で会い難いほうの人間か、それともざらにある米喰い虫か、まだ初春までには十日あまりの余日があるので、これから京都へ出向く旅のつれづれに、ひとつ試してみようという気持で。
四
武蔵が目的の地へ着いたのは、もう夜も深い時刻だった。
馬子の労を犒って、
「帰ってもよい」
駄賃を与えて去ろうとすると、馬子のいうには、今さらこんな山奥から帰りようもない。朝がたまで、旦那がこれから訪ねてゆく家の軒下でも借りてやすみ、朝になってから鈴鹿峠を下って来る客を拾って帰ったほうが歩がいいし、それにまた、なんともこう寒くてはもう一里も歩くのは辛いという。
そういわれてみればこの辺りは伊賀、鈴鹿、安濃の山々のふところで、どっちを向いても山ばかりだし、その山のいただきには、真っ白な雪がある。
「では拙者のさがす家をおまえも一緒に尋ねてくれるか」
「宍戸梅軒様のお家で」
「そうだ」
「さがしましょう」
その梅軒というのは、この辺の百姓鍛冶ということであるから、昼間ならすぐ分ろうが、もうこの部落では起きている燈火一つ見あたらない。