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みやもとむさし
宮本武蔵
吉川 英治
04 火の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页
そういう旅行者と厄介者をこの女房は扱い馴れていることが様子に見える。三十がらみでちょっと美麗な女であったが、どこか横柄に、武蔵へ向って、子供へものをいいつけるように、
「うしろをお閉め、寒い風がふきこむと、子どもが風邪をひくがな」
といった。
武蔵は頭を下げ、
「はい」
と素直にうしろの板戸を閉めた。そしてさて――鞴のそばの切株に腰かけて、この真っ黒な細工場と、そこからすぐ筵の敷いてある三間ほどなこの家の中を見まわしてみると、なるほど、壁の一端に、かねて噂に聞くところの鎖鎌という見つけない武器が、およそ十挺ほど、板に打ちつけてある角掛に懸けてある。
(あれだな?)
こういう武器と、こういう一種の武術に出あって置くことも、修行の一つと武蔵は考えて来たのであるから、それを見るとすぐ彼の眼の光は違っていたに相違ない。
砧の木槌を下へおくと女房はぷいと起って筵の上へあがった。茶でも沸かしてくれるのかと思うと、そこに敷いてある乳のみ児の蒲団の中へ手枕で横になって、児に乳ぶさをふくませながら、
「そこの若いお侍、おめえっちはまた、うちの良人にぶつかって、物ずきに、血へどを吐きにやって来なしたのかよ。