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みやもとむさし

宮本武蔵

吉川 英治

04 火の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页

青空文庫

六

「あっ……」

武蔵は思わず眼をみはった。

乳ぶさを出して寝そべっているところを見たのでは、牝牛のような女にしか見えなかったが、鎖鎌を持って構えると、立派で、端厳で、その姿は美でさえあった。

また、鯖の背のように青ぐろい鎌の刃渡りには、宍戸八重垣流と彫ってある文字もあざやかに読まれるのだった。

六

あっ見事なと、武蔵が眼を吸いよせられた途端に、鍛冶の女房はもうすぐ仕型の構えを、体から消して、

「ま、こんなものじゃ」

鎖鎌をがらがらと一本の棒にまとめて、元の壁へかけてしまった。

武蔵は彼女のした型を、記憶する間がなかったのを、ひそかに遺憾にして、

(もういちど見たいが)

と思ったが、女房はさしたる顔もなく、砧を片づけたり、朝の炊ぎの仕掛をしたり、台所のほうでガチャガチャ水仕事に忙しない。

(あの女房ですら、あれほどな心得があるとすれば、亭主の宍戸梅軒という男の腕はどれほどか?)

武蔵は病気のように、急にその梅軒という男にあいたくなって来た。――だがあの女房のいうには、良人の梅軒は、伊勢の荒木田とかいう人の家へ行っていて留守だという。

伊勢へ来て、荒木田様を知らないのか、とさっきも笑われたことだが、恥をしのんで、馬子にそっと聞いてみると、