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みやもとむさし

宮本武蔵

吉川 英治

04 火の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页

青空文庫

「大神宮さまのお守人じゃ」

と、馬子は、鞴のそばの壁へ倚りかかって、いいあんばいに温もりながら、もう半分眠っていながらいう。

(伊勢神宮の神官か、そこへ行ったのならすぐ分る、よし……)

勿論その夜は、筵のうえにごろ寝である、それも、鍛冶の小僧が起きて、土間の戸をあけるともう寝ていられない。

「馬子、ことのついでに、山田までのせてゆくか」

「山田へ」

馬子は眼をみはる。

だが、きのうの分の駄賃は無事にもらったので、その方の不安はない、行こうということになって今日もまた、武蔵を馬の背にのせて、松坂へ出、やがて伊勢大神宮への何里とつづく参道並木を暮れ方に見た。

冬であるにしても、街道の茶屋はひどくさびれていた。並木の大木が、風雨に仆れたまま、幾つも横たわっていた。旅客の影も馬の鈴も稀れである。

禰宜の荒木田家へ、武蔵は山田の旅籠から問いあわせてみた。――宍戸梅軒という者が逗留しているか否かを。

すると、荒木田家の執事からの返辞には、そういう者は泊っていない、何かの間ちがいであろう――とある。

武蔵は、失望と同時に、足の傷の痛みを思い出した。釘を踏んだ傷口はおとといころよりひどく腫れている。