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みやもとむさし
宮本武蔵
吉川 英治
04 火の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页
四
四
怪我人も多く出たし、死者も幾人かあったのに、それから一瞬の後は、めいめい職場にかえって、けろりとした工事場の広さであった。
何事もなかったように、石曳きは石を曳き、土工は土をかつぎ、石工は鑿で石を割っている。
鑿が火花を出す暑い音、霍乱をおこして暴れくるう馬のいななき、残暑の空は、午後に入って、じいんと鼓膜が馬鹿になるような熱さだった。伏見城から淀のほうへ背のびをしている雲の峰は、しばらくうごきもしなかった。
「もう九分九厘まで、くたばっているが、御奉行が来るまでこうして置くから、汝そこにいて、こいつの番をしておれ。――死んだら死んだまでのことでいい」
人足頭や目付の侍に、こう命じられたことを又八は覚えている。――だが頭がどうかなってしまったのか、先刻から目撃したきりそう吩咐けられたことも、なんだか悪夢をみているようで、眼や耳には意識しても、頭のしんまで届いていない。
「……人間なんて、つまんねえものだな。たった今そこで、城の見取図を写していた男が」
又八のにぶい眸は自分から十歩ほど先の地上にある一個の物体を見つめたまま、最前からぽんやりと虚無的な考えに囚われている。