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みやもとむさし

宮本武蔵

吉川 英治

04 火の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页

青空文庫

お汝の身を、あの子等之館へ置いておくのがよろしくないというて、わしの身を思うてくれるあまり、わしに喰ってかかる神領郷士の者がある」

「ま、私のために」

「なんの、お汝がそう済まん顔をする理由はちっともない。しかし、世間眼というもので見ると――怒りなさるなよ……お汝はもう男を知らぬ清女ではない――清女でもない女を子等之館へ置くのは神地を穢すものだと――まアこういうのじゃな」

氏富は淡々と話しているが、お通の眼のうちには、口惜しげな涙がいっぱいに光った。誰に向って怒りようもないそれは無念さだった。しかしまた、旅に馴れ、人に馴れ、そして垢のように年月古い恋を心につけて世間をさまよっている女を――世間がそう見るのは当り前かも知れないとも思う。だが、それにせよ、処女が処女でないといわれることは、忍び難い恥辱をあびたように身が顫くのだった。

氏富は、それほどの問題とは考えていないらしい。けれど、人の口がとかくうるさいし、もう数日のうちには初春ともなるのだから、この辺で、巫女たちの笛の指南は打切りにしてもらいたい――つまり子等之館を出てくれまいかという相談であった。