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みやもとむさし

宮本武蔵

吉川 英治

04 火の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页

青空文庫

「いやその代りに、お通さんがこれから先、京都の方へ立ち廻られた時、ついでに頼み申したい用事もあるのじゃから、それも承知してもらったり、これも納めて置いてもらわねばならん」

「お頼みのことは、何でもいたしますが、これはお志だけでたくさんです」

強って、さし戻すと、氏富は彼女のうしろにいる城太郎を見つけて、

「オオこれ。それでは、これはお前にあげるから、道中、何ぞ買物でもするがいい」

「ありがとうございます」

城太郎はすぐ手を出して、自分の手に納めてしまって後、

「お通さん、もらって置いてもいい?」

と事後承諾を求めたので、お通もせんかたなく、

「すみませぬ」

と礼をいう。

氏富は満足して、さて、

「頼みというのは、お汝たちが、京都へ行った折に、これを堀川の烏丸光広卿のお手許まで届けてほしいのじゃが」

と、壁のちがい棚から、ふた巻の絵巻物を取り下ろして、

「おととしの頃、光広卿から頼まれて、ようようこのほど描きあげたわたしの拙い絵巻じゃが、詞書を光広卿が遊ばして、献上するお心と聞いておる。ただの使いや、飛脚の者の手に託しては、それゆえに、心もとないのじゃ。雨にもよごれぬよう、不浄なこともないように、お汝たちが、大事にとどけてくれまいか」