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みやもとむさし

宮本武蔵

吉川 英治

04 火の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页

青空文庫

そのために、青年は続々離郷する――また家を離れ骨肉も省みない。その多くが武者修行の道をとるのだ。武者修行をして歩けば今の社会では到るところで衣食に事を欠くことはない。田夫野人でも武術には関心をもっているからだ。寺院へ頼っても渡れるし、あわよくば地方の豪族の客となり、なお、幸運にぶつかれば、一朝事のある場合のために、大名の経済から「捨て扶持」「蔭扶持」などというものを貢がれることもある。

だが数多い武者修行の中で、そういう幸運にあう者がどれほどあろうかといえば、これは極めて少数にちがいない。功成り名を遂げ、一人前の禄取りになるほどの者は一万人中で二人か三人を出ないであろう。――それでいて修行の苦しさと、達成の至難なことは、これでいいという、卒業の行き止まりがないのである。

(馬鹿馬鹿しい……)

又八は、同郷の友の宮本武蔵が行った道を憐んだ。おれは将来、奴を見返してやるにしても、そんな愚かな道はとらないぞと思う。ここに死んでいる顎のない武者修行のすがたを見てもそう思う。

「……おやっ?」

又八は飛び退いて大きな眼をすえた。なぜならば、死んだものときめていた蟻だらけの武者修行の手がびくっと動き出して、縄目の間から鼈のような手首だけを出して大地へつき、やがてむくりと、腹を上げ、顔を上げ、次に前のほうへ一尺ばかり、