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みやもとむさし
宮本武蔵
吉川 英治
04 火の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页
宍戸梅軒との試合はすでにおれが勝った。完全に勝ったと思う。
だが、先刻からの話を聞いていれば、この男の宍戸梅軒というのは後の名で、以前には野洲川の野武士で辻風黄平と称えていた者だとある。そして、自分がかつて打ち殺した辻風典馬とは、兄弟である関係からして、自分をこよい殺して兄の怨霊をなぐさめようという、野武士ずれの男としては、殊勝な心がけを持っている。
生かしておけば、この後もまた、折あるごとに、自分を死へ謀るにちがいない。一身の安全からいえば、殺してしまうに限るが、殺すほどの値打があるかどうか。
「……?」
それを武蔵は考えてみるのであったが、やがて決するところが着いたのであろう、彼は梅軒が寝ている裾のほうへ廻って、その壁の角掛から、一挺の鎖鎌を外して、手に取った。
――梅軒は醒めない。
顔をのぞいて、武蔵は、鎌の刃を、爪でひき出した。青じろい刃と柄が、鉤形になった。
武蔵はその刃へ、濡れ紙を巻いて、そして梅軒のちょうど首の輪のところへ鎌をそっと載せた。
(……よし!)
天井から下がっている風車も眠っていた。もし、鎌の刃に濡れ紙を巻かずにおいて、あしたの朝、この父親の首が枕から落ちていたりなどしたら、この風車は気が狂って廻るだろうと思う。