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みやもとむさし

宮本武蔵

吉川 英治

04 火の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页

青空文庫

それを、ぶーんと扉口から外へ投げやって、

「もういい」

と、朱実のそばへ坐ったが、彼女の二の腕は、決して、もういいどころの状態ではなかった。

真っ白な腕が、緋牡丹みたいに血しおを噴いている。――その白さと紅さに、小次郎はぶるると自分にまで、痛みと慄えを感じた。

「酒はないか、傷を洗う酒は。……いや、あるまいな、こんなところに、あるはずはない。ハテ、どうしたもの」

ぎゅっと、彼女の腕を抑えていると、熱い液体が、自分の手頸へも、さらさらとあふれて来るのだった。

「もしかして、犬の歯の毒でも受けたら、気狂いになってしまう。この間うちから、気狂いじみていた犬だ」

咄嗟の処置に迷いながら、小次郎がそう呟くと、朱実は、痛そうに眉をしかめ、白い頸を、うつつに反らしながら、

「えっ、気狂いに。……いっそのこともう、気狂いになりたい、気狂いに」

「ば、ばかな」

小次郎はいきなり顔をよせて、彼女の二の腕の血を口ですすった。口の中へ血がいっぱいになると吐きすてて、また、白い肌を頬張った。

八

たそがれになると、青木丹左は一日の托鉢からとぼとぼ帰って来た。

もう薄暗くなっている阿弥陀堂の扉を開けて、