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みやもとむさし

宮本武蔵

吉川 英治

04 火の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页

青空文庫

へ現わし、

「あっ、そなたは、無二斎の子の武蔵じゃないか」

少年の頃から初めて会うこの叔母に、たけぞうと呼ばれないで武蔵といわれたのは、案外でもあったが、それよりはなにかしらさびしい気がして、

「はい、新免家のたけぞうでございます」

武蔵のほうからいうと、叔母は彼のそういう姿を、ながめ廻すだけで、まあ大きくなったことだとも、見ちがえるほど変ったとも、いわなかった。

ただ冷やかに、

「そして、そなたは、なにしにここへ来やったのか」

と、むしろ難詰るようなことばでいう。武蔵は、はやく別れた生みの母になんの記憶もなかった。だがこの叔母と、こうして話していると、自分の母も、生きていた頃は、このくらいな背丈の人であったろうか、こういう声の人であったろうか――と目もとや髪の先にまで、亡き母の面影をこころの裡で求めていた。

「べつに、なんの用事があってという次第ではございませぬが、京都へ参りましたことゆえ、ふとおなつかしゅう存じまして」

「うちを訪ねて来やったのか」

「はい、突然ながら」

すると叔母は、

「やめたがよい、もうここで会えば、用がすんだであろ。帰りゃ、帰りゃ」

と、手を振るのだった。