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みやもとむさし

宮本武蔵

吉川 英治

04 火の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页

青空文庫

四

(おれにはまだ、縁を恃む気持が失せない。自力だ、一人だと、常に誡めながら、ふと人に依りかかる。……馬鹿だ、浅慮だ、おれはまだ成っていない)

慚愧すると、その慚愧している自分のすがたがまた、いとど醜しく思われて、武蔵はよけいに自分への恥に打たれた。

「そうだ、書いておこう」

なにを思いついたか、彼は常住坐臥、肌身を離さずに持ち歩いている武者修行風呂敷を解きはじめた。

――その頃、この家の門の外に立って、ほとほとと、そこを叩いている旅扮装いの老婆があった。

四

半紙を四つ折にかさねて綴じた彼の雑記帖なのである。武蔵はそれを、旅包みの中から出して、早速、硯箱をひきよせた。

それには、彼が漂泊のあいだに拾った感想だの、禅語だの、地理の覚えだの、自誡のことばだの、また、ところどころには幼稚な写生画なども書いてあった。

「…………」

筆を持って、彼は余白を見つめていた。百八つの鐘はまだ遠く近く鳴りつづけている。

われ何事にも悔いまじ

武蔵は、そう書いた。

自己の弱点を見出すごとに、彼は自誡のことばを一つ書いた。だが、書いただけではなんの意味もなさない。朝暮に経文のように唱えて胸へ刻みこむのでなければならない。