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みやもとむさし
宮本武蔵
吉川 英治
04 火の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页
四
希望もあれば、その日その日の楽しさもある若い日の花園だった。もちろん辛いとか悲しいとかのことの多い中にではあるけれど、辛いこと、悲しいことを離れて、ただ楽しいだけの楽しさなどあろうとは、彼女には信じられない。
けれど今日ばかりは、彼女のそうして持ち堪えてきた心も亡んでしまいそうだった。今までの純真な心へ、ま二つの亀裂が走ったかと自分ですら悲しまれた。
――朱実と武蔵と。
あのふたりが五条の欄で人目もなく並んでいたのを遠くから見たせつな、お通は、足がふるえてしまった。あやうく、眩いがして倒れかけたので、牛車の蔭にかがみ込んでしまったのである。
――なぜ今朝、ここへ来たろうか。
悔いても泣いても及ばない程に思って、短い間に、すぐ死を考えてみたり、男性が嘘のかたまりに思われたり、憎しみと愛と、怒りと悲しみと、自分という人間にすら嫌厭がわいて、泣いたぐらいでは、心の慟哭がおさまらなかった。
でも。
武蔵のそばに、朱実のすがたがあるうちは、自分を主張できないお通であった。もの狂わしいほど、体じゅうの血しおが嫉妬の火と変じながら、なお理性の幾分かが、
――はしたない。