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みやもとむさし

宮本武蔵

吉川 英治

04 火の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页

青空文庫

(おや?)

うろたえた眼をして見廻している。あるべきところに酒の壺がないのだ。しかしそれはすぐ炉のそばに横たわっているのを発見したが、同時に、その空の容器とともに、肱枕をして、涎をながして眠っている見つけない人間をも見出し、

「誰だろ?」

及び腰に覗き込んだ。

よく眠っている男だった。撲りつけても眼を醒ましそうもない大鼾声をかいているのである。酒はこいつが飲んだのだな――と思うとその鼾声に腹が立つ。

まだ事件があった。今朝の朝飯として食べのこしておいた鍋の飯が、見れば底をあらわして一粒だにないではないか。

虚無僧は顔いろを変えた。死活の問題であった。

「やいっ」

蹴とばすと、

「ウ……ウむ……」

又八は、肱を外してむっくと首をあげかけた。

「やいっ」

つづいて、もう一ツ、眼ざましに足蹴を食らわすと、

「何しやがる」

寝起きの顔に、青すじを立てて、又八はぬっくと起ち上がった。

「おれを、足蹴にしたな、おれを」

「したくらいでは、腹が癒えんわい。おのれ、誰に断って、ここにある雑炊飯のあまりと酒を食らったか」

「おぬしのか」

「わしのじゃ!」

「それやあ済まなかった」

「済まなかったで済もうか」