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みやもとむさし
宮本武蔵
吉川 英治
04 火の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页
「こいつ」
と、力み直したが、相手の足もとは、どうして、確かりとしたものだ。
かえって又八が顎をあげて、
「うッ……」
妙な声をしぼりながら、どたどたっと次の部屋まで押し出され、それを食い止めようとする力を利用されて、手際よく、壁へ向って投げ捨てられた。
根太も柱も腐蝕っている屋敷である。一堪りもなく壁土が崩れて、又八は全身に泥をかぶった。
「ペッ……ペッ……」
猛然と唾して立つと、ものをいわない代りに、凄い血相が刃物を抜いて、跳びかかってきた。虚無僧も心得たりという応対で、尺八をもって渡りあう。しかし情けないことにはすぐ息喘れが出て来て、尖った肩でせいせいいうのだ。それに反して又八の肉体はなんといっても若かった。
「ざまを見ろッ」
圧倒的に又八は、斬りかけ斬りかけして、彼に息をつく間を与えない。虚無僧は化けて出そうな顔つきになった。体の飛躍を欠いてともすると蹴つまずきそうになる。そのたびに何ともいえない死に際のさけびを放った。そのくせ八方に逃げ廻って、容易には太刀を浴びないのである。
しかし結果は、その誇りが又八の敗因となった。虚無僧が猫のように庭へ跳んだので、それを追うつもりで廊下を踏んだ途端に、雨に朽ちていた縁板がみりっと割れた。