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みやもとむさし
宮本武蔵
吉川 英治
04 火の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页
片足を床下へ突っこんで、又八が尻もちをついたのを見ると、得たりと刎ね返して来た虚無僧が、
「うぬ、うぬ、うぬっ」
胸ぐらを取って、顔といわず鬢たといわず、撲りつけた。
脚がきかないので又八はどうにもならなかった。自分の顔が見るまに四斗樽のように腫れたかと思う。――すると、もがき争っている懐中から、金銀の小粒がこぼれた。撲られるたびに美い音がして、貨幣はそこらに散らかった。
「――やっ?」
虚無僧は、手を放した。
又八もやっと彼の手をのがれて跳び退いた。
自分の拳が痛くなるほど、憤怒を出しきった虚無僧は、肩で息をしながら、あたりにこぼれた金銀に眼を奪われていた。
「やいっ、畜生め」
腫れ上がった横顔を抑えながら又八は、声をふるわせてこういった。
「な、なんだっ、鍋底のあまり飯くらいが! 一合ばかしの濁酒が! こう見えても、金などは腐るほど持っているんだ。餓鬼め、ガツガツするな。それほどほしけれやあ、くれてやるから持ってゆけっ。その代り、今てめえが俺を撲っただけ、こんどは俺が撲るからそう思えっ。――さっ、冷飯と濁酒代に利子をつけて返すから、頭を出せっ、頭をここへ持って来いっ」