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みやもとむさし
宮本武蔵
吉川 英治
04 火の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页
幻術
一
「どうなとしておかれい」
「虚無僧、おぬしには、時々、中国訛りが交じるな」
「姫路じゃもの」
「ほ……。おれは美作だが」
「作州? ――」と、眼をすえて、
「してまた、作州はどこか」
「吉野郷」
「えっ。……吉野郷とはなつかしいぞ。わしは、日名倉の番所に、目付役をして詰めていたことがあるで、あの辺のことは相当に知っておるが」
「じゃあ、おぬしは、元姫路藩のお侍か」
「そうじゃ、これでも以前は、武家の端くれ、青木……」
名乗りかけたが、今の自分を省みて、人前に身を置いているに耐えなくなったか、
「嘘だ、今のは、嘘じゃよ。どれ……町へながしに行こうか」
ぷいと立って、野へ歩み去った。
幻術
一
――金が気になる。費ってならない金だと思うにつけて気になるのだ。たんとは悪いが、少しぐらいは、この中から借りて費ったところで罪悪にはなるまいと遂には思う。
「死者の頼みで、その遺物を、郷里へ届けてやるにしても、路銀というものが要る。当然、その費用は、この内から費ったとて関うまい」
又八はそう考えてから、幾分気が軽くなった。――気が軽くなった時には、もう幾分ずつ、小出しにそれを費い始めていた時なのである。