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みやもとむさし

宮本武蔵

吉川 英治

04 火の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页

青空文庫

五

男は、そう聞いても、かくべつ驚きもしないのだ。杯を向けて、

「じゃあ、貴公は、剣術を」

「左様」

又八は、嘘がすらすら出るのが愉快だった。

大胆に嘘をいうと、よけいに酔いが顔に咲いて、酒のさかなになる気がするのである。

「――多分、実はさっきから、そうじゃないかと、拙者も見ておったので。やはり鍛えた体はちがうとみえ、どこか出来ているな、……して、鐘巻自斎の御門下で、何と仰せられるか。さしつかえなくば、ご姓名を」

「佐々木小次郎という者で、伊藤弥五郎一刀斎は、私の兄弟子です」

「えっ」

と、相手の男が驚いたらしい声を発したので、又八のほうこそびっくりしてしまった。あわてて、

(それは冗戯)

と、取消そうと思ったが、赤壁八十馬は、とたんに地へ膝をついて頭を下げているので、今さらもう冗戯ともいえなかった。

五

「お見それ申して」

と、八十馬は何度もあやまる。

「佐々木小次郎殿といえば、とくより耳にしておるその道の達人。知らないというものは、他愛のないもので、先刻からの失礼は、平に」

又八は、ほっとした。佐々木小次郎をよく知っている者か、面識でもある間がらでもあれば、たちまち嘘がばれて、脂をしぼられるところであったがと――