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みやもとむさし

宮本武蔵

吉川 英治

04 火の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页

青空文庫

「いや、お手を上げて下さい。そう改まられては、私こそ、ご挨拶のしようがない」

「いや、先ほどから、広言のみ吐いてさぞお聞き苦しかったことで」

「なに、私こそ、まだ仕官もせず、世間も知らぬ若輩者で」

「でも、剣においては。――いやよくお名まえは彼方此方で聞きますぞ。……そうだ、やはり佐々木小次郎」

つぶやいて、八十馬は、酔うと目やにの出る性らしい眼を、どろんと据え、

「その上で、まだご仕官もなさらぬのか、惜しいものだ」

「ただ剣一方に、すべてを打ち込んで来たので、世間にはとんと何の知己もないために」

「や、なるほど。――ではまんざら仕官のお望みがないわけでもないので」

「もとより。いずれは、主人を持たねばならぬと考えていますが」

「ならば、造作もないこと。――実力があるのだからたしかなものだ。もっとも実力があっても、黙っていては容易に見出されるはずはない。こうお目にかかっても、それがしですら、尊名を聞いて初めて驚いたようなもので」

と、さかんに焚きつけて、

「お世話しよう」

と、いい出した。

「実はそれがしも、友人の薄田兼相に身の振り方を依頼してあるところ。大坂城では、禄を問わず、抱え入れようとしている折だし、貴公のような人物を推挙すれば、薄田氏も、すぐ買おう。