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みやもとむさし

宮本武蔵

吉川 英治

04 火の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页

青空文庫

お甲という女の性質がよくわかってからは、お甲と同棲しているうちから、心はお通へもどっていたのだった。やがてあの「よもぎの寮」と呼ぶお甲の家を、ていよく突き出されたような形で出てしまってからは、よけいにお通を思うことが多かった。

その後また、よく洛内の侍たちの間で噂にのぼる宮本武蔵なる新進の剣士が、むかし友達の「武蔵」であることを知ると、又八はじっとしていられなかった。

(よしっ、俺だって)

彼は酒をやめた。遊惰な悪習を蹴とばした。そして次の生活へかかりかけた。

(お甲のやつにも、見返してやるぞ。――見ていやがれ)

だが、さしずめ適当な職業は見つからなかった。五年も世間を見ずに、年上の女に養われて来た不覚のほどが、はっきり身に沁みて分ったが、遅かった。

(いや、遅かあない。まだ二十二だ。どんなことをしたって……)

と、これは誰にでも起せる程度の興奮だったが、又八としては、眼をつぶって運命の断層をとび越えるような悲壮をもって、この伏見城の土木へ働きに出たのだった。そしてこの夏から秋までの炎天下で、自分でもよく続いたと思うほど労働をつづけていた。

(おれも、一かどの男になってみせる。