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みやもとむさし
宮本武蔵
吉川 英治
04 火の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页
三
だが、牢人にしては、ちょっと立派なものを一つ身に着けている。それは、緋羽織の背なかへ、革紐で斜めに負っている陣刀づくりの大太刀である。反りがなくて、竿のように長い。
ものが大きいし、拵えが見事なので、その少年のそばへ寄った者は、すぐ少年の肩ごしに柄の聳えているその刀に目がつくのだった。
「――いい刀を持っている」
そこから少し離れたところから、祇園藤次も、さっきから見恍れていた一人であった。
「京洛でもちょっと見ない」
と思う。
刀のすぐれた物を見ると、その持ち主から、遠くは、その以前の経歴までが考えられてゆく。
祇園藤次は、機があったら、その美少年へ、話しかけてみたいと思っていた。
――冬の昼靄にうすずいて、よく陽のあたっている島の淡路は、艫のかなたに、だんだん遠くなってゆく。
はたはたと、大きな百反帆は、生きもののように、船客たちの頭の上で潮鳴りを切って鳴っていた。
三
藤次は旅に倦んでいた。
なま欠伸が出る――
飽きのきた旅ほど他人の世界を感じるものはない。祇園藤次は、その飽き飽きした旅を、もう十四日もつづけて来たあげくのこの船中であった。
「――飛脚が間にあったかしらて? ……間にあえば、大坂の船着場まで、迎えに来ているにちがいないが」