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みやもとむさし

宮本武蔵

吉川 英治

04 火の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页

青空文庫

眸がうるんで来て、今にも涙のこぼれそうな眼になる。

祇園藤次は、この多感な美少年の述懐を聞いても、若い彼といっしょになって、感傷を共にする気には元よりなれない。

だが、退屈に苦しんでいるよりは、ましだと考えて、

「ふム、なるほど」

熱心に聞いている顔つきを装うと、美少年は、鬱懐をもらすように、

「その時、すぐ行けばよかったのです。けれど私は周防、師は上州の山間、何百里の道です。折わるく、私の母も、その前後に歿したので、遂に、師の死に目に会えませんでした」

――船がすこし揺れだした。冬雲に陽がかくれると、海は急に灰色を呈し、時々、舷に飛沫が寒く立つ。

美少年はなお話をやめない。多感な語気をもって語る。――それから先のことを綜合すると、彼の境遇は今、故郷の周防の家屋敷をたたみ、師の甥でもあり同門の友でもある草薙天鬼という者と、どこかで落ち合おうというために、この旅行をつづけているものと見られる。

「師の自斎には、何の身寄りもありません。で、甥の天鬼には、遺産といってもわずかでしょうが、金を与え、遠く離れている私には、中条流の印可目録を遺してゆかれました。