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みやもとむさし
宮本武蔵
吉川 英治
04 火の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页
これは船頭の当然な怒号だった。おどり上がって美少年の胸ぐらにぶら下がったのである。
頑丈な船乗の体も、美少年のまえに正当に立つと、ぶら下がったという言葉がおかしくないほど、背も骨ぐみも、段ちがいに美少年のほうが逞しくて立派だったのである。
「おまえこそ、何するのだ、飛び道具で、無心の小猿を撃ち落そうとしたろう」
「そうだ」
「不届きではないか」
「なぜッ。――断ってあるぞ、おらの方では」
「どう断った?」
「おめえは、眼がねえのか、耳がねえのか」
「だまれ、こう見えても、わしは客だ、わしは武士だ。船頭風情の身をもって、客よりも高い場所に突っ立ち、頭の上からあのように喚いたとて、侍が、答えられるか」
「いい抜けを吐ざくな。そのためにおらは何度も断ってある。その断りかたが気にくわねえにせよ、なぜ、おらが立つ前に、あちらの客衆が迷惑したのを、黙りこくって、知らぬふりしていさらしたのじゃ」
「あちらの客衆とは――おおあの幕の中で先刻から博戯をしておった町人どもか」
「大口をたたくな、あの客衆は、並の客衆よりは、三倍も高い船賃を出してござらっしゃる」
「いよいよ不埒な町人どもだ、衆人の中で、大びらに金を賭け、酒の座を気ままに占め、わが物顔して、この船中に振舞っている様子、面白くない人間どもかなと眺めていたのじゃ。