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みやもとむさし

宮本武蔵

吉川 英治

04 火の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页

青空文庫

髷をちょん切られた頭には、頭巾をかぶせているが、眉にも唇にも、暗澹とただよっている。

と。――その影を見つけ、

「もし……ここですよ、藤次さま」

その女も、頭巾をかぶっていた。渡海場に立って吹き曝されていた顔が、寒さに硬ばって、年をかくしている皺が、白粉の上に出ていた。

「お、お甲か。……来ていたのか」

「来ていたのかって、ここへ迎えに来ているようにと、私へ手紙をよこしたくせに」

「だが、間にあうかどうか、と実は思っていたものだから」

「どうしたんですえ、ぼんやりして――」

「イヤ、すこし、船に暈ったとみえる……。とにかく、住吉へでも行って、よい宿を見つけよう」

「え、あちらに、駕も連れて来ましたから」

「そいつは有難う、じゃあ宿も先に取っておいてくれたか」

「みな様も、待ちかねているでしょう」

「え?」

意外な顔して、藤次は、

「オイお甲、ちょっと待ってくれ。おまえとここで落ちあったのは、二人ぎりでどこか静かな家で二、三日悠っくりしようという考えじゃないか。……それを、皆様とは一体、誰と誰のことをいうのだ」

二

「乗らない。わしは乗らない」

祇園藤次は、迎えの駕を拒んでぷんぷん怒りながら、お甲の先へ歩いていた。