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みやもとむさし
宮本武蔵
吉川 英治
04 火の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页
炬燵のある部屋に入って、朱実とふたりで差し向うほうが、この同勢と飲んでいるより、どれほどいい人生かわからない。
「さあ、これからだ」
とは門人どもが、門人だけになってからの発声だった。やがて程なく十三間川の名物という怪しげな唄い女が笛、三味線などのひねこびた楽器を持って庭にあらわれ、
「いったい、あんたはん達は、喧嘩するのかいな、酒あがるのかいな」
と訊ねる。
すでによほど大トラになっている一人が、
「ばかっ、金を費って喧嘩する奴があるか。おまえたちを呼ぶからには、大いに飲んで遊ぶのだ」
「じゃあ、まちっと、静かにあがりやはったらどうかいな」
手際よく扱われて、
「然らば、歌おう」
抛り出していた毛脛をひっ込めたり、横にしていた体を起して、絃歌ようやく盛んならんとする頃おい、小女が来て、
「あの、お客様が、船からお着きなさいまして、ただ今、お連れ様といっしょに、ここへきやはりまする」
と、告げて行った。
「なんだ、何が来たと」
「藤次といった」
「冬至冬至、魚の目か」
お甲と祇園藤次は、あきれ顔して部屋の口に立っていた。誰も彼を待ったらしい者は一名もないのだった。