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みやもとむさし
宮本武蔵
吉川 英治
04 火の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页
「――お嬢さま、お嬢さま。さっきから先生がお呼びでごさいますよ。どこへ行ったのかと、えらいご心配になって」
旅舎の男だった。彼女のすがたを碑のそばに見つけて、こういいながら走って来た。
朱実がもどって行って見ると、清十郎はただひとりで、松かぜの音を静かに閉てこめた冬座敷で、緋の蒲団をかけた炬燵に手を入れてぽつねんとしていた。
彼女のすがたを見ると、
「どこへ行っていたのだ、この寒いのに」
「オオ嫌だ、ちっとも寒くなんかありやしない。浜はいっぱいに陽があたっていますもの」
「何していた」
「貝をひろっていたの」
「子どもみたいだな」
「子どもですもの」
「正月が来たら幾歳になると思う」
「幾歳になっても子どもでいたい……いいでしょう」
「よかあない。すこしは、おふくろの案じているのも考えてやれよ」
「おっ母さんなんか、何も私のことなんか考えているものですか。自分がまだ若い気ですもの」
「ま、炬燵へお入り」
「炬燵なんか、逆上るから大っ嫌い。……私はまだ年寄りじゃありませんからね」
「朱実」……手くびをつかんで、清十郎は膝へ引き寄せた。
「きょうは誰もいないらしい。おまえの養母も、粋をきかして先へ京都へ帰ったし……」