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みやもとむさし
宮本武蔵
吉川 英治
04 火の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页
いくらお杉隠居が呼んでも、ふたたびその眼は開かなかった。
手をつくした漁師たちも、
「この老人のほうは駄目だ」
と、さじを投げた。
そう聞くと、隠居はもう涙を見せなかった。せっかく、親切にしてくれる人々へ、
「何がだめじゃ! 一方の女子が息をふき返したのに、この者ばかり生きぬという法があろうか」
食ッてかかるような権まくで、手を出している者たちを突き退け、
「この婆が活かして見せるわ」
と、必死になって、あらゆる手当を施すのだった。
その一心不乱な様子は、見るも涙ぐましい程であったが、そこらに居合わす者を、まるで雇人か何ぞのように、やれ押し方が悪いの、そうしては効がないの、火を焚けの薬を取って来いのと、権突くと顎の先で使うので、縁もゆかりもない浜の者たちは腹を立てて、
「なんだ、このくそ婆」
「死んだ者と、気絶した者とはちがうのだ、活かせるものなら活かしてみろ」
呟きあって、いつの間にか、皆ちりぢりにそこを去ってしまった。
浜べはもう暮れかかる、うす靄の沖に、橙色の雲がわずかに夕明りを流していた。婆はまだ思い諦めようとしない。そこに火を焚いて、焚火のそばへ権叔父を抱き寄せ、