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みやもとむさし

宮本武蔵

吉川 英治

04 火の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页

青空文庫

「しめた」

距離は、いよいよ縮まる。

明らかにそれと分ると、つい思慮もなく、一人が呶鳴ってしまった。

「おおウいっ。――その船待てっ」

すると船から、

「なんじゃあ……」

と半間な声がひびいてくる。

陸では今、お先走って呶鳴った男を、ほかの仲間が叱っていた。――何も今、ここで呶鳴るにはあたらない。これから何十町か先まで行けば、嫌でも船着があって、乗る客も降りる客もあるにちがいない。それをここから呶鳴っては船中にある敵に心支度をさせるようなものではないか、というのだった。

「まあ、どっちにせよ、先は多寡の知れた一人。呶鳴ったからには、明らさまに名乗りかけて、川の中へ逃げ込まない用心をしろ」

「そうだ、そのことだ」

と程よく捌く者があって、仲間割れは救われた。

そこでこの七名は、気をそろえて、淀を溯る夜船の船脚とおよそ足の早さを共にしながら、

「おうーいっ」

とまた呼び直した。

「なんじゃあ」

客ではない、船頭らしい。

「その船を岸へ寄せろ」

こういうと、

「阿呆吐かせ」

これはどっと誰彼なく、船の中から揚った笑い声だった。

「着けぬかっ」

威嚇すると、こんどは客の声らしく、