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みやもとむさし

宮本武蔵

吉川 英治

04 火の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页

青空文庫

は反対に、三間も後ろへぽんと飛び降りていた。

「――鮮やかッ」

と、賞めたのは、味方ではなくて、敵の前髪の美少年だった。

物干竿を持ち直して、清十郎のほうへ一躍しながら、

「今の所作、敵ながら見よい嗜み、察するところ吉岡清十郎その人と見た。よい折だ――いざッ」

向けて来る物干竿の切っ先は炎々たる闘志の塊であった。清十郎の体にはさすが拳法の嫡子、それを受けるだけの余裕と鍛えたものが十分に見える。

「岩国の佐々木小次郎、さすがに目が高い。いかにも自分こそは清十郎であるが、理由もなく、其許と刃交ぜをする意思は持たぬ。――勝負はいつでも決しられる。なんの意趣でこの始末か、まず退き給えその刀を」

最初に清十郎が、岸柳と呼んだ時には、耳にも入らなかったらしいが、二度目には明らかに岩国の佐々木と名をさしたので、前髪は、

「や! ……わしを、岸柳佐々木小次郎とは、どうしてご存じあるのか」

と驚きに打たれた。

清十郎は、膝を打って、

「やはり、小次郎殿であったか」

と、いいながら前へ進んで来た。

「――お目にかかるのは、もとより初めてだが、おうわさは常々詳しく聞いていた」

「誰に?」