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みやもとむさし

宮本武蔵

吉川 英治

04 火の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页

青空文庫

「拙者が悪い」

清十郎は、自責しながら、沈痛な顔をして歩いていた。

そちらに含むところがなければ一切を水に流そう――と小次郎がいうと、

「願ってもないことだ。却って、これをご縁に、将来はご交誼をねがいたい」

と、清十郎も応じていう。

二人の打ちとけた様子を前に見ながら、弟子たちはほっとした気持で後から続いていた。――一見、体の巨きな坊ンちみたいな前髪の美少年が、伊藤弥五郎一刀斎が常に、

(岩国の麒麟児)

と、口を極めて称えていた岸柳佐々木であろうと誰がちょっと思い当ろうか。祇園藤次が軽く舐めて舐め損なったのも、あながち無理はない気がするのである。

それと分って、今さら、胆を寒うしているのは、その小次郎の愛剣物干竿の先から命びろいをした植田良平やほかの者どもで、

(これが、岸柳か)

と、眼を改めて、その人間の幅広い背中を見直して、なるほどそう知ってから見れば、どこかに非凡なところがあると、今さら、自己の眼識の浅さをもあわせて認めている。

やがて、以前の毛馬村の船着場へ来ると、そこには物干竿の犠牲になった幾つかの死骸がもう寒天に凍っていた。死骸の後始末は三名にいいつけて置き、植田良平は先に逃げて行った馬を見つけて曳いて来る。