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みやもとむさし
宮本武蔵
吉川 英治
04 火の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页
征服慾を駆り立てられるのであった。四斗樽のように腫れた脚をかかえて寝ていると、なんとなく気に喰わない気がしてならない山の傲岸さである。
衆山を抜いて、白雲のうえに、超然としている鷲嶺の頭の尖を見ていると、武蔵は、柳生石舟斎のすがたが思い出されてならない。石舟斎という人物は、おそらくあんな感じの老人ではないかと思う。――いやいつのまにか彼は、鷲ヶ岳という山が石舟斎そのもののような気がして来て、遥か雲表から、自分の意気地なさを、嘲り笑われているかのような気がするのだった。
「…………」
山と睨めッこしている間は忘れていたが、ふとわれに返ると、彼はまた鍛冶の鞴の中に突ッこんでいるような足を持てあまし、
「ウウム、痛い」
思わず膝の下から横へ投げ出して、自分の物でないような太くて丸い足くびに眉をしかめた。
「――おいっ、おいっ」
武蔵はその激痛を吐くような語勢で、旅籠の女中を、不意に呼び立てた。
なかなか来ないので、彼はまた拳固で二つ三つ畳をたたいた。
「おいっ、誰かいないか。……すぐ出立するから、勘定をして来てくれい。それと弁当、焼米、丈夫な草鞋三ぞくほど、支度をたのむぞ」