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みやもとむさし

宮本武蔵

吉川 英治

04 火の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页

青空文庫

武蔵にも劣らぬ色の黒さの上にあばたがあり、髪の毛は赤くてしかも縮れている。

「親方、親方」

後ろから彼をそう呼ぶ者がなければ、誰がどう見ても、野武士としか見えなかったが、船から一足おくれて追いついて来た者を見ると、十六、七歳の鍛冶屋の小僧で、鼻の両わきに煤をつけ、肩に、柄の長い鉄槌をかついでいた。

「待ッとくんなさい、親方」

「はやく来い」

「船へ、鉄槌を忘れちまったんで」

「商売道具を忘れたのか」

「かついで来ましたよ」

「あたり前だ、もし忘れなんぞしたら、頭の鉢を割ってやる」

「親方」

「うるせえな」

「今夜は、津へ泊るんじゃねえんですか」

「まだ、たっぷり陽があるから、泊らずに歩いちまおう」

「泊りてえな、旅仕事に出た時ぐらいは、楽をしたいな」

「ふざけるなよ」

船から町へ入る旅客の通り道に、ここでも抜け目なく宿引きや土産物屋が関を作っている。

鉄槌を担いでいる鍛冶屋の徒弟は、そこでまた、親方の姿を見失ってしまい、人混の中でキョロキョロしていたが、やがて親方はそこらの店で眼についた弄具の風車を買って来て彼の前に現われ、

「岩公」

「ヘイ」

「これを待って行け」

「風車ですね」